前衛芸術家【草間彌生】に世界が夢中!その人物・作品とは

タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれ、文化勲章も受賞した草間彌生。よくご存知ない方でも草間彌生の水玉柄やカボチャのオブジェを1度は見かけたことがあるのではないでしょうか。今回はその人物と作品の魅力をご紹介します。

草間彌生の人生


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寝食も忘れて作品創りに没頭したニューヨーク時代
草間 彌生(くさま やよい、1929年(昭和4年)3月22日 -)は日本の芸術家。長野県松本市生まれ。幼い頃から悩まされていた幻覚や幻聴から逃れるために、それらの幻覚・幻聴を絵にし始めました。1957年、単身渡米した草間彌生は貧困な生活の中で、驚くべき集中力で作品制作に没頭していたといいます。松本での悲惨な少女時代から精神疾患に悩まされた彼女は、その強迫と幻覚のビジョンを、無限に反復した網目や水玉で執拗に表現しようと試みました。その恐るべき集中力で何日も絵を描き続け、しばしば救急車で病院に運ばれることもあったといいます。そんな草間彌生の絵画は、ドナルド・ジャッド、フランク・ステラなど同時代の作家や批評家に衝撃を与え、ニューヨークのアートシーンの最前線に躍り出ることになります。

1960年代には性や食の強迫をテーマに、無数の男根状の突起物やマカロニで素材を多い尽くすソフト・スカルプチュアを手掛け、かの芸術家アンディー・ウォーホルにも絶賛されました。草間彌生がもっとも憧れたジョージア・オキーフにも励まされ、ジョセフ・コーネルからは毎日熱心に電話と手紙で求愛を受け、親密な関係が続いたといいます。そんな華やかな活躍の影で、草間彌生は「いつもポジ(生)とネガ(死)の世界を見つめていた」といいます。沸き起こる自殺衝動と「永遠の事故消滅」のオブセッションに苛まれ、病を克服するために芸術を続けたのです。


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反戦と性の解放を求めエスカレートした活動
やがて草間彌生は、ハプニングの活動を開始しました。鏡張りの部屋に電球が点滅する「草間のピープ・ショー」を発表し、オープニングに訪れた人々に「愛はとこしえ」のバッジを配りました。1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレにゲリラ参加。1500個のミラーボールを芝生に敷き詰め、金色の振袖姿でボールを販売しようとして事務局から中止を求められます。ヒッピームーヴメントも花盛りのこの頃、草間彌生の行為は次第に過激さを増していきます。穴から性器が覗くコスチュームを着た女たちや男たちの身体に水玉のペインティングを施す「ボディ・フェスティバル」や、ひとつのドレスを2人以上で纏って愛し合う「オージー・ハプニング」は、ウォール街からウッドストックまであらゆる場所で繰り広げられました。その様子はハレンチというよりも牧神とニンフたちのピクニックのようで、むしろ微笑ましく見えたといいます。反戦と性解放を叫びながらも、そこにはヒステリックな猛々しさは微塵もなく、ポップなユーモアに彩られていました。

精神世界を救ったのは勇敢さと想像力
1970年に日本へ一時帰国した草間彌生は、銀座で「ハプニング」を行い警察に拘束され、テレビや週刊誌のインタビューには煽情的なフレーズが躍りました。その中で草間彌生は「世間の目や古い道徳にしばられて、ただお嫁にいくのを待つよりは、スーツケースひとつ下げて、乞食をしても野宿をしても、自分の好きなことをやるべきです」と日本の若い女性へ向けて語っています。草間彌生の芸術は、様々な困難を創作に打ち込むことで克服してきた彼女の人生の実現そのものでした。まさに網目を紡ぐように瞬間瞬間をつないできた草間彌生。その勇敢さと創造力が、抑圧された精神世界を救い、醸成したのです。もはや裸のアートも世間を驚かさず、反戦の声が虚空に散る現在、果たして人間の生や性は解放されただろうか、と省みさせてくれる。そんな作品を草間彌生は生み出し続けてきたのです。

草間彌生の作品と鑑賞できるスポット

「わが永遠の魂」

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世界を舞台に活躍する前衛芸術家、草間彌生。1950年代後半に単身ニューヨークに渡って以降、絵画、彫刻、インスタレーション、映像、さらには小説や詩に至るまで、広範な活動を展開してきました。デビュー以来一貫して時代の最先端を走り続け、今もなおその創作意欲はとどまるどころか、さらに加速しています。今や「日本が生み出した最も傑出したアーティスト」といっても過言ではないでしょう。
2017年に催された日本での展覧会では、2009年から草間が精力的に取り組んでいる大型の絵画シリーズ「わが永遠の魂」を中心に据え、一挙約130点を日本初公開しました。「わが永遠の魂」では水玉や力強さを感じる模様、ハッとするようなカラフルな色づかいで、唯一無二の作品をつくり続けています。さらにこの展覧会では初期から現在に至る創作活動の全貌を総合的に紹介。草間芸術の魅力を余すところなく伝えた集大成となりました。

草間彌生美術館

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草間彌生を語る上で欠かせないのが、2017年10月に開館した草間彌生美術館です。コレクションを年2回の展覧会にて紹介し、講演会などを催すことで、草間が作品を通じて繰り返し訴えてきた「世界平和」と「人間愛」というメッセージを広く世界に伝えることを目指しています。

新宿の街並みが一望できる屋上ギャラリーには、タイルが全面に貼り付けられた「Starry Pumpkin」(2015)が、また4階には体験型インスタレーション「無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく」(2017)が展示されています(期間により異なります)。これは草間を代表するシリーズとなった「ミラールーム」の最新作であり、暗闇の中で、無数のカボチャが明滅を繰り返すという作品です。

とどまるところを知らず、今もなお旺盛な制作に邁進している草間彌生の鮮烈な作品を、あますところなく堪能できる草間彌生美術館。ファンのみならずとも現代アートの最前線としてぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。チケットは完全日時指定制の前売券のみの取扱いなので、詳細は同館ウェブサイトを参照してください。

丨草間彌生美術館
住所:東京都新宿区弁天町107
電話番号:03-5273-1778
開館時間:11:00〜17:30(2018年10月〜) ※日時指定の予約・定員制(各回90分)、当日券なし、チケットは美術館ウェブサイトのみで販売
開館日:木金土日、および国民の祝日
料金:一般 1000円 / 小中高生 600円 ※毎月1日10:00(日本時間)に美術館ウェブサイトで翌々月分のチケット発売開始

十和田市現代美術館「愛はとこしえ十和田でうたう」

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オノ・ヨーコや奈良美智、ロン・ミュエクなど世界で活躍するアーティストによって構成されているコレクションをもつ十和田市現代美術館。メインストリートである官庁街通り全体をひとつの美術館に見立て、屋外に多数の作品を展示しています。そんな屋外空間を舞台にしたアート広場の一角にあるのが、カボチャや少女、キノコ、犬たちの8つの彫刻群「愛はとこしえ十和田でうたう」(2010)です。カボチャは中に入ることもできますし、自由に写真を撮ることも可能です。この広場では、入館料を払わなくても、草間の作品をはじめとする様々な国内外の作家たちによる作品を鑑賞することができ、気軽に現代美術を楽しむことができます。

丨十和田市現代美術館
住所:青森県十和田市西二番町10-9
電話番号:0176-20-1127
開館時間:9:00〜17:00 ※最終入館は16:30まで
休館日:月

群馬県原美術館「ミラールーム かぼちゃ」

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磯崎新設計の黒で統一されたシャープな木造建築であるハラ ミュージアム アークは、原美術館の別館として、国内外の優れた現代美術を紹介している美術館です。そのコレクションのひとつである草間の「ミラールーム(かぼちゃ)」は、鏡張りの部屋を小窓からのぞくと無数のかぼちゃの世界が広がるインスタレーション作品。また、展示室全体の壁・床・天井一面を黄色に塗り、大中小の水玉をちりばめることで作品をより効果的に見せています。

丨ハラミュージアムアーク
住所:群馬県渋川市金井2855-1
電話番号:0279-24-6585
開館時間:9:30〜16:30 ※入館は16:00まで
休館日:木(8月中は無休)展示替え期間(10月1日〜5日)、冬季

新潟越後妻有「花咲ける妻有」

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2018年7月29日に開幕した日本を代表する芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」は、これまでに蓄積されてきた約200点もの作品が常設展示されています。
周囲を山々に囲まれた松代エリアにある、水玉の描かれた巨大な花のオブジェ「花咲ける妻有」(2003)は、草間彌生自身が「私のお気に入りナンバーワン」と同芸術祭公式サイトにコメントしている作品です。そのほかにもイリヤ&エミリア・カバコフの《棚田》など、世界的なアーティストの作品が点在しているので一見の価値有り。ダイナミックな野外彫刻を越後妻有の青空とともに体感することができます。

丨越後妻有 大地の芸術祭の里
まつだい「農舞台」周辺
住所:新潟県十日町市松代3743-1
電話番号:025-595-6180

クレマチスの丘「明日咲く花」

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クレマチスの丘は、静岡県・長泉町の富士山麓の見晴らしのいい丘陵地にあります。ヴァンジ彫刻庭園美術館やベルナール・ビュフェ美術館、IZU PHOTO MUSEUMといった美術館や井上靖文学館、そしてショップやレストランも併設された文化と自然が一体となった複合施設です。

草間彌生の彫刻作品、「明日咲く花」(2012)はクレマチスの丘創設15周年を記念し、クレマチスの丘に常設設置された作品。以前はヴァンジ彫刻庭園美術館の庭園に設置されていましたが、現在は美術館チケットセンター前に移設していて、来館者たちを出迎えてくれます。庭園内にある約250品種2000株以上のクレマチスをはじめ、多種多様な花と草間彌生の「花」との共演を楽しみたいスポットです。

丨クレマチスの丘
住所:静岡県長泉町東野クレマチスの丘347-1
電話:055-989-8787
開館時間:10:00〜18:00(※4〜8月、時期によって変動)※入館は閉館の30分前まで、レストランおよびショップは除く
休館日: 水(祝日の場合は開館、その翌休)、年末年始

松本市美術館「幻の華」「松本から未来へ」

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草間彌生の生誕の地である松本市美術館では、建物正面に常設されているダイナミックな巨大野外彫刻「幻の華」(2002)と、ガラス面を水玉で覆った作品「松本から未来へ」(2016)が来館者を迎え入れてくれます。松本市美術館ではほかにも、新作絵画シリーズ「わが永遠の魂」の作品をはじめ、草間の少女期から近年までの作品を幅広くコレクション、展示しているので見応えたっぷり。また、同館では自動販売機やベンチなども草間彌生を代表するモチーフである水玉模様で彩られていて、草間彌生の故郷・松本でその世界観を存分に堪能することができます。

丨松本市美術館
住所:長野県松本市中央4-2-22
電話番号:0263-39-7400
開館時間:9:00〜17:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合、翌平日)

小説作品「水玉の履歴書」

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彼女を深く理解するなら草間彌生の生い立ちから綴られた小説作品もおすすめです。「私は人の影響を受けたことがありません。自分自身の芸術を信じているからです」「私はこの水玉一つで立ち向かってやる。これに一切を賭けて、歴史に反旗をひるがえすつもりでいた」など、草間彌生がこれまでに発してきた数々の言葉から、自らの闘いの軌道と哲学を語った内容になっています。

世界の美術界の頂点に君臨する草間彌生


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前衛芸術家として世界の美術界の頂点に君臨する草間彌生。1957年に単身渡米し、1973年に帰国してから現在にいたるまで、国内はもちろん世界各国の美術館で大規模な個展が開催されて多くのファンを魅了し続けています。そんな草間彌生をカルチャーとして、アートとして、楽しんでみてはいかがでしょうか。

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